熱処理
浸漬焼入れ
浸漬焼入れは、金属部品の表面硬度を向上させ、耐摩耗性や疲労強度を高めるための熱処理工程です。主に鋼材や鉄鋳物などの炭素含有材料に適用されます。この処理は、部品をオーステナイト相に変換する高温まで加熱し、急速冷却(焼き急ぎ)することで、表面にマルテンサイト構造を形成することを目的としています。
浸漬焼入れのプロセスは以下の通りです。
🔵加熱:部品を所定の温度(通常850〜950℃)まで加熱します。この段階で、炭素原子が鉄格子内に溶解し、オーステナイト構造が形成されます。
🔵急速冷却:部品を高温状態から急速に冷却します。一般的には、水、油、またはポリマー溶液を用いた冷却が行われます。この急速冷却によって、オーステナイト相が不安定となり、マルテンサイト構造へ変態します。
🔵テンパリング:焼入れ後の部品は、硬くて脆いため、適度な靭性を持たせるために低温(150〜200℃)で再加熱(テンパリング)が行われます。この工程で、残留応力が緩和され、マルテンサイトの一部がテンパマルテンサイトへ変態し、部品の靭性が向上します。
浸漬焼入れを適切に実施することで、部品の耐摩耗性、耐疲労性、硬度が向上し、製品の寿命が延びることが期待できます。ただし、焼入れ条件や冷却速度の選択が重要であり、部品の形状や材料特性に合わせた最適な工程設定が求められます。